一から学べる!バリアフリーについて知っておきたいこと

バリアフリーの重要性は認識していても、その本来の意味までは知られていないのが日本のバリアフリーの現状です。そんなバリアフリーの基礎知識や身の回りのバリアフリーのご紹介、現状と課題等をまとめています。
バリアフリーの基礎知識
バリアフリーとは、障がいのある方や高齢者が社会生活を快適に過ごす上での障壁を取り除くという概念として用いられています。
バリアフリーには設備と人の意識の2面があり、そのどちらかが欠けていると成立しているとは言えません。
例えば、階段の横に設置されているスロープや駅などで必ずと言って良いほど見かける多機能トイレ等は、バリアフリーの設備です。
人の意識の面でのバリアフリーとは、助けが必要な時に一声かけられるか等が該当します。
この点において日本はまだまだ発展途上で、障がい者や高齢者に対しての偏見や無関心等をなくすことを「心のバリアフリー」と呼び、改善を呼びかけています。心のバリアフリーは行動を伴うものである事が望ましく、優先席を譲るなど実際の行動が意識の面の発展につながるでしょう。
バリアフリーの現状意義
日本では少子化と平均寿命が伸びたことにより、65歳以上の割合が年々増加しています。65歳以上が人口の21%以上になると超高齢者社会と呼ばれますが、総務省統計局https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2024np/index.htmlによると2024年10月1日現在の日本の65歳以上の人口の割合(高齢化率)は29.3%で、過去最高を更新。超高齢化社会の基準となる21%を大幅に上回っている現状です。
また、何らかの障がいがある方の割合は厚生労働省の2022年12月時点の発表https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/では、約1,164万6,000人。これは日本の総人口の約9.3%に相当します。国民のおよそ11人に1人が何らかの障害を抱えている計算になります。
人数は一つの指標にしかなりませんが、これだけの人が社会生活を送りづらい世の中にならない為にもバリアフリーの考えは大切です。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
バリアフリーという言葉は広く使われていますし、建築や福祉の分野では標準的な用語として定着しています。
一方で、時代や考え方の変化に伴い、バリアフリーをさらに発展させた概念である「ユニバーサルデザイン」という言葉も同じくらい重要視されているため、双方の違いを見ていきましょう。
バリアフリー
障壁(バリア)を取り除くこと。主に高齢者や障害者など特定の方の不便を解消することに重点を置く。既存の障害を取り除く。
現在の住宅や公共建設では
バリアフリーの義務化・・・法律に基づき、特定の建物や改修工事では、段差解消や通路幅の確保などが義務付けられている。
ユニバーサルデザイン
最初から誰にとっても使いやすいデザインにすること。年齢や能力、状況にかかわらず、すべての人が利用できることを目指す。最初から誰もが使いやすように設計する。
ユニバーサルデザインの採用・・・義務ではないが、より多くの人が快適に過ごせるよう、最初から広めの間口や誰でも使いやすいデザインの設備(レバーハンドルなど)を採用する傾向が強くなっている。
身近なバリアフリー
街中のバリアフリー
信号
信号を渡るときによく耳にする「ピヨピヨ」などの音は、目の不自由な方のために2方向から出ており、音の違いで進む方向を判断することできます。
バス
車椅子の方のために段差のないノンステップバス年々増加し、バスの車内も手すりや段差があるところが目立つように床がグレー系、手すりをオレンジ系などに色分けするなど、安全への配慮がみられます。
点字ブロック
目の不自由な方のサポートをするために地面に設置された黄色い凸凹が点字ブロックです。正式名称は「視覚障がい者誘導ブロック」と言って、日本で発祥し世界に普及しています。
ブロックには2種類あり、線状のブロックは進行方向、点状のブロックは停止を示し、目の不自由な方が安全に移動できるように主に横断方向や駅のホームなど危険箇所にあります。
駅のバリアフリー
スロープ
駅の中の移動は階段など段差が多く、小さい段差の解消方法がスロープの設置です。国の方針で2020年までに平均利用者数が3000人を超える駅は、全てバリアフリー化することが目標となっており、段差の解消は目標達成が可能と言われています。
エレベーター
仕様にもよりますが、エレベーターには多様なバリアフリーがあります。例えばボタンには、車椅子の方が押しやすい高さで、目の不自由な方でもわかるように点字が付いています。
室内の大きな鏡は、車椅子の方が後ろ向きのまま出るためのサポートの役割を果たしており、身だしなみチェックのためではありません。最近では鏡ではなく、入り口と出口を別につけることで進行方向を変えずに出ることができる仕様も増えてきています。
多機能トイレ
よく車椅子用トイレとも呼ばれていますが、正式名称は多機能トイレです。多機能トイレには車椅子の方の他に、オストメイト(人工肛門・人口膀胱保有者)やオムツ替えの乳幼児のためなどの機能がついており、誰でも使いやすいトイレ、つまりユニバーサルデザインの考えに基づいています。
具体的には広いスペース、広い出入り口、手すり、呼び出しボタン、大型ベット、オストメイト対応水洗器具などが普通のトイレにはない機能です。
しかし機能が集中してしまったことにより、利用も集中してしまい数の不足を指摘する声も少なくありません。
現状の多機能トイレの基準では広いスペースが必要になることなど増設が難しいため、普通のトイレにも機能を分散させることも検討されています。
ホームと車両の段差・隙間の解消
乗降時の危険を防ぐため、ホームの嵩上げや可動式ステップの設置により、ホームと車両の床との段差や隙間を可能な限り小さくします。
点字ブロック
視覚障がい者が安全に移動できるよう、駅の出入り口から改札、ホーム、エレベーター前などに設置されます。
音声案内・誘導
主要な案内板や券売機、改札機などに音声案内機能を搭載したり、点字や触知案内板を設置したりしています。
その他にも、券売機を低い位置に設置したり、車いすが通りやすい幅広の自動改札機、または有人改札を設けたりもしています。
バリアフリー化の現状と課題
乗降客の少ない地方の駅では、費用対効果の面からバリアフリー化が遅れているケースがあります。駅のバリアフリー化は福祉の向上だけでなく、少子高齢化が進む日本において、すべての人が移動しやすい社会を維持するために不可欠な取り組みとされています。
住宅のバリアフリー
「あらゆる人」ではなく「そこに住む人」にウェイトを置いた考え方ができるのが特徴です。終の住処として高齢になった時のことを見越して設計する方も多くいます。
浴室
滑りやすく転倒の恐れがあるので手すりの取り付けや出入り口の段差をなくし、車椅子が直接入れるように出入り口の間口を広くすることなどが一般的です。
浴室では転倒以外にも、家の中の温度差によって引き起こされるヒートショックによる事故も多く報告されています。高齢者の事故が多く、発生件数は交通事故より多いというデータもあり、特に暖かい部屋から寒い浴室へ移動した時などは注意が必要です。
高気密・高断熱住宅にすることにより温度差を最小限に抑えることができるので、費用はかかりますが予防策としておすすめです。
トイレ
移動が大変な高齢者の方などは、寝室近くにトイレを設置し、手すりをつけることで立つ・座るといった動きにも補助を入れると良いでしょう。トイレを2ドアにして、寝室・浴室と繋がっている形にする事で、移動を最小限に抑えることも介護生活になった時のことを考えると良いかもしれません。
キッチン
バリアフリーキッチンと呼ばれるものの多くが取り入れていると言われているのが、座った人目線の設計です。
例えば、低く作られた調理台や座ったまま作業ができるようにシンクの下に足が入れられるスペースを設けるなど、立ち仕事が辛い人でも極力人の手を借りずに作業ができるようになっています。
バリアフリーの現状と課題
日本は世界的に見てもバリアフリーが進んでいる国と言うことができるほど、充実した設備を備えています。
改正バリアフリー法では、充実してきた設備面と国民の心のバリアフリーが連携した共生社会の実現が明確化し、意識の面でのバリアフリーの重要性がより一層謳われています。この点において、日本はまだまだ改善の余地があり、日常生活にバリアを感じている人が多くいることも事実です。
設備の面での課題
小規模施設や民間住宅の遅れ・・・バリアフリー法の基準適合義務の対象となるのは、一定規模以上の建築物や公共交通機関の主要駅などです。そのため、個人住宅や小規模な店舗・施設のバリアフリー化は、費用負担の観点から遅れています。
駅の課題・・・地方や無人駅は乗降客が少ないので、エレベーター設置などの費用負担が大きく、段差解消の整備率なども低くなっています。また、転落防止に極めて有効なホームドアの整備も、費用や設置スペースの制約、車両形式の違いなどから、主要駅以外では遅れています。
意識の面での課題
海外から見た日本のバリアフリーの課題として、意識の面を挙げられることが多くあります。
席を譲った方が良い時や重そうな荷物を持ってあげる等、気づいてはいるけど言い出せない場合や、そもそもバスや電車の優先席や車椅子用スペースを、健常者の方が譲らない等の事態が起きてしまうと、バリアフリーとは言えません。
前述してきた心のバリアフリー実現のためにも、国民の意識としてもう一歩手を差し伸べる勇気と差し伸べやすい環境作りが急務と言えるでしょう。
これからのバリアフリー
日本全体に言葉としての認知は広まっているバリアフリーですが、その取り組みを詳しく理解している人は限られており、これからはバリアフリーについて知る機会を増やす取り組みが必要になってきています。
車椅子用アプリの「WheeLog」
アプリを通してユーザーが知っている情報を共有可能で、「車椅子でもこのルートなら行ける」「ここに多機能トイレがある」など写真付きで共有することができます。
情報を知ることで車椅子の方が街に出かけやすくなり、街で車椅子の方を見かけることが多くなると「心のバリアフリー」の発展にも繋がっていくでしょう。
また、驚くべきことにWheeLogのユーザーは半数近くが歩ける人です。車椅子の方に情報を共有することで、すでにアプリを通して間接的に心のバリアフリーが広まっています。
Googleマップのバリアフリー機能
普段使っているGoogleマップの機能の一つとして、バリアフリー情報が組み込まれています。公共交通機関の経路検索で「車いす対応」のオプションを選択することで、エレベーターやスロープのある駅、経路のみを検索できます。
また、施設の詳細情報に「車いす対応の入り口」や「バリアフリートイレ」の有無が表示されることがあります。
NAVITIME(ナビタイム)
東京全駅のエレベーター情報を考慮した検索が可能
既存機能のエレベーターを使った乗り換え経路を優先的に表示する「エレベーター優先」ルートにて利用できます。東京都内の駅を出発地・目的地に設定してルートを検索すると、乗り換え時に階段を避けてエレベーター利用するルートが提案されます。
まとめ
建設当時はバリアフリーの観点があまり含まれていなかった街中や駅の構内も、着実にバリアフリー化が進められてきています。さらにこれから建設する建物等は、誰もが使いやすいように考えられたユニバーサルデザインの考えのもと創られるでしょう。
これからは高齢者、障がい者、健常者と属性で判断するのではなく、誰しも助けが必要で、そのポイントは人それぞれであるという事を忘れてはいけません。健常者が一方的に助けるという考えではなく、全ての人が快適に過ごせるように考えるユニバーサルデザインの考えが、これからのバリアフリーにとって重要な役割を果たしていくことになることが予想されます。
バリアフリーについて知りたい方のために、バリアフリーの意味など基礎知識を詳しくまとめました。街中や駅、住宅のバリアフリーも画像付きで解説しています。日本のバリアフリーの現状と課題についても含め、バリアフリーの情報を網羅しています。



